アジアのMakers by 高須正和
君が内向的なオタクであることはいちばん大事なことだ「世界ハッカースペースガイド」
拙著「世界ハッカースペースガイド」(翔泳社)は、僕が2013年頃から数年に渡りアメリカ、アジア(台湾、中国、タイ、シンガポール)、ヨーロッパ(デンマーク、フランス)各地のハッカースペース、Makerスペースを訪ね、活動やプロジェクト、その国のMakerスペースのありかたを紹介している。 各国Makerスペースの連絡先やアポイント方法なども掲載している、あまり類書のない内容だ。
全国のファブスペースを紹介したfabなびを掲載するfabcross読者向けに、書籍の内容紹介とMakerスペースの可能性を解説する。
投資のため、生活のため、国ごとに違うハッカースペースのありかた
この本ではハッカーもMakerも同じもの、ハッカースペースもMakerスペースも同じものとして扱っている。
派遣社員的なフリーランスではなくて、プロジェクト単位で契約しているフリーランサーのエンジニアが多い場所では、それぞれ集まって仕事する場所が必要になるのでコワーキングスペースが多くなる。同じ場所にフリーランスのエンジニアが集まっていると、忙しいときに仕事をシェアできたり、苦手な部分をフォローしあえたりして効率が良い。
フリーランスをしていると最新トレンドへのキャッチアップや、スキルのアップデートが遅れるのも怖い。毎日忙しく働いていたら自分の得意分野が時代遅れになっていた、なんてことは、たとえるならガラケーとスマホのようによく起こる。勉強会がコワーキングスペースでよく開催されるのは、そうした部分をキャッチアップしたいというニーズがある。
書籍に登場するサンフランシスコ、マンハッタン、シンガポール、フランス、台北、欧米人が主な利用者のチェンマイなどはそうしたフリーランスエンジニアのためのMakerスペースだ。
一方で、起業や新ビジネス開発のために開かれるMakerスペースもある。定期的な各人の活動報告や、デモの披露会があるような場所で、本書に登場する深センの電気街、華強北にあるSEG+MakerやバンコクのNE8T, Home of Makerなど、最近注目されるコワーキングスペースのWeworkやPlag&Playなどもこちらのスタイルだろう。
ヒッピーのコミューンのようなデンマークのIllutron、Maker文化の普及のために開かれている深センの柴火創客空間など、どちらのスタイルにも収まらないMakerスペースも、本書には多く登場している。
君が内向的なオタクであることはたいへんに良いことだ(ミッチ・アルトマン)
僕はMakerたち、「好きなことをしている人たち」が好きだ。Makerと製造業としてのメーカーを区別するときに、「作りたいものを作ってる人をMaker」とよく説明する。やりたくてやっている、いわばモチベーションを自給自足している人は、そのぶん社会ではマイノリティであり、相談できたり共感できる相手が少ないさびしさを感じることもある。ほかのMakerが、自分の興味をわかってくれるとも限らない。
Makerスペースという概念を提唱したミッチ・アルトマンは、ずっとそのさびしさを感じていて、プロジェクトベースで働く電子回路のエンジニアから、フルタイムの「Maker」に転身したと同時に、どんなテレビでも消してしまう赤外線信号を出すTV-B-GONEという自分のプロジェクトに加えて、Makerたちを繋げる活動を始めた。
サンフランシスコのMakerスペース「Noisebridge」は彼が運営し、自分のプロジェクトの販売や講演、ワークショップなどで生活している。
彼は本書の刊行に際し、アツいメッセージを送ってくれた。
あなたがこれを読んでいるなら、ハッカースペースを周遊して訪問することはすばらしいことだと考えているのだろう。その通りだ!
君の地元にも世界中にも、僕らの惑星はハッカースペースで満ちている。
この地球には70億人の人がいる。君が一緒にいたいと思う人たちをどこで見つけるのかはわからないが、「ハッカースペースやハッカーカンファレンスにいる」というのは、僕らみたいな人種にとってとても強力なフィルターだ。
ぼくらはひきこもりで内向的なオタクだから、誰とでも話したいわけじゃない。でも、ハッカースペースやハッカーカンファレンスに参加している連中はほぼすべてが内向的なオタクだ。しかも彼らは、おそらくクールなプロジェクトを持っている(または考えている)内向的なオタクなんだ。だから、「どういうことをやっているの? 試させてもらえる?」と話しかけることで、簡単に会話を始めることができる。
そうやって話しかけたからと言って君の人格が変わるわけじゃない。君が独自の趣味を持ったコミュ障のオタクであることはすごく大事な、いちばん良いことだ! それでも、生涯の友人になるかもしれない人々に会うことができる。その人に会う前にあなたが興味を持っていなかったことに興味を持つこともある。オタクとの出会いは人生を変えるかもしれない。
私たちの生活のすべてがよりクールになる。自分の好きなことにさらなる情報が見つかるかも知れない。
見つかったことの中で、好きなことだけをやろう。嫌いなことをする時間を減らしていこう。出会いはそこから始まる。君は自分の人生をさらにクールにするものを選んでいくことができる。たくさんの選択肢を持って、そこから自由に選べることは大事だ。何を選んでも、必ず一緒に楽しむコミュニティが見つかるだろう。それがハッカースペースの魔法なんだ。
だから、自分の興味と共に歩こう。一緒に歩いて行ける人たちを見つけよう。君が時間をかけていろいろなものを選んだことを他人に伝えよう。それが他人を変えるかも知れない。経験を分かち合おう。それは僕たちみんなが成長する方法だ。
ぼくらの世界にはあなたが必要なんだ。君が必要なんだ。
僕たちはお互いを必要としている。一緒にいてくれてありがとう。
オリジナリティがあることを考えている人ほど、なかなか一人では興味がキープできなくて、共有することで強くなる。
「初音ミク」や「オープンソース」は、興味のあることに夢中になり、それを共有する人たちが、どんな会社や団体、時には国家よりも大きな進化を人類にもたらした成果だ。コンピューターを、テクノロジーを自分のために使うことがマイノリティだった時代の空気を今も纏っているミッチみたいなハッカーは、ハッカーであることの素晴らしさ、ハッカー達が集まることの素晴らしさをいつも説いている。
僕自身も、そうした初音ミクやオープンソースのようなイノベーションにいつも惹かれている。大企業や政府が主導して起こすイノベーションは、どうしても最初からマスを意識して、トレンドの後追いになる。
もちろんそれは必要なのだろうが、僕はそれよりも、ニーズから遠いところで生まれた要求が多くの同志を得たときに爆発する力に惹かれる。Maker Faireは、マイナーなイベントだったときも、スタートアップブームやMaker教育のおかげで大きなムーブメントになった今も、相変わらず素晴らしい。なぜならそこは、「やりたくてやってる人たちが主役」の場所だからだ。
Makerスペースはそういう人たちを育む場所でもある。もちろん、今ではMakerの可能性に惹かれて、ビジネス的なソロバン勘定も考慮しながら運営されるMakerスペースも増えている。ミッチがフルタイムでMakerをやれているのも、そのおかげではある。だからビジネスとMakerは、同じものではないが、対立するものでもない。
ビジネスモデル云々とは別に、ハッカーとは生き方でもある。いろいろな国のMakerスペースをまわることは、そういう国々のテクノロジーのスタイルを見ることでもあり、自分自身を再発見することでもある。
刊行記念イベントを東京でやります
僕は普段、中国深センを拠点に世界中のMaker Faireを飛び回っているのだけど、中国の旧正月にあわせて東京に行く。前回のタブレットの組み立て工インターンで見えたものレポートで紹介したJENESIS藤岡社長の「ハードウェアのシリコンバレー深センに学ぶ」と合同でのイベント行脚で、製造業寄りの藤岡さんの話と、Makerスペース寄りの僕の話を両方聞けるイベントになるはずだ。
2018/2/21(水)DMM.Make AKIBA
企業は深センをどう活用するべきか? - 深センの「ものづくり」の現状
2018/2/22(木)下北沢B&B
藤岡淳一×高口康太×高須正和×山形浩生「中国のものづくりはホンモノなのか?」
2018/2/23(金)品モノラボ
2018/2/25(日)Yahoo Lodge
深センIoT界のフロントランナーに学ぶ 「Makerスペースの可能性と、世界最高の分業体制の秘訣」
2018/2/26(月)Techshop Tokyo
TechShopで考える『メイカースペースと深圳小ロット製造』
2018/2/27(火)広島イノベーションハブ
(このイベントは高須のみ、藤岡社長は登壇しない)
ハードウェアのシリコンバレー深センのエコシステム