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アジアのMakers by 高須正和

テストしづらい「製品名」をユーザーテストする

Facebookを見ているといくつもの製品広告が出てくる、僕は旅ばかりしているのでクラウドファンディング中のリュックの宣伝が多く出てくるが、どれもありふれていてクリックするのはまれだ。それでもクラウドファンディングで受け入れられるためには写真1枚と数行の名前で消費者に理解されなければならない。どうにかして事前に検証できないだろうか。

その製品名、本当に最適なの? 事前にテストできないか

新しい製品を発売するときに、製品名や特徴が一発で伝わることは大事だ。スタートアップの宣伝費は限られているから、大量の広告を投下して分かってもらうわけにはいかない。製品名プラステキスト1行ぐらいの情報でその製品の特徴が伝わるようにしなければならない。

実際にクラウドファンディングキャンペーンが始まってしまうと、もう大幅な訴求ポイントの変更は難しい。ビデオも撮影済みだし、紹介するための素材も作りきっている。また、こうしたマーケティングを考えている段階では、製品そのものはもう大詰めで、ここから残されているのは

  • 訴求ポイント
  • その訴求ポイントが現れているビデオや写真
  • 製品名

などだ。

安い、簡単、便利、アルミCNC削りだし、ワンボタン、フルスタック、IoT、ビッグデータ、AI、言いたいことはいっぱいあるけど、どれを製品名に含めるかは難しい。今はみんな忙しくて、どういう製品か、どういう効果がある(あるいは、何の問題を解決しているのか)、ライバルとはどこが違うのかといった、ユーザーの5W1Hを満足させる必要がある。さらに大成功するにはその限られた情報がSNSでシェアされる必要がある。生活必需品やスペック勝負のプロ向け機材に比べて、既存のカテゴリーに入らない新しいモノや、中を見ないと分からないコンテンツをユーザーに訴えるのは難しい。

OGP*として設定される製品名と写真プラスせいぜい1~2行のスローガンで、それが何で、何の役になって、なぜ自分がそれを買うかを納得させないとならないが、実際に「その製品名が正しかったか」が分かるのは製品を発表した後になってしまうので、試行錯誤が難しい。売る前の製品なのでアンケートなどではうまく検証できない。

*OGP(Open Graph Protocol): FacebookやTwitterなどSNSでコンテンツを共有する際に、共有先に表示される画像やテキスト。

なんとかして、本格的な宣伝をはじめる前に、何パターンかの製品名や訴求ポイントを比較して、最適なものを決められないだろうか? スタートアップアクセラレーターのHAXでは、製品の名前、イメージ、コンセプトなどの善し悪しを判断するときに、Facebook広告とランディングページを使った検証を行っている。

1. いくつかの訴求ポイントごとに製品名を候補にし
2. 製品名と写真、訴求のコピーをセットにしたランディングページ(メールアドレスを登録してもらう)とFacebook広告を作り
3. ターゲットを指定してFacebook広告を出す

ことで、製品で一番「刺さる」ポイントは何か、シェアしてもらえ、メールアドレス登録がある製品名やコピーは何かを検証することができる。Facebook広告のターゲット指定は細かいので、関係者を除いたり、絞り込んだりできるのもテストに効果的だ。プロジェクト開始時のメール配信を登録してくれるのは、少なくとも少しは買う気になっているユーザーだけなので、どういう伝え方をすると買う気のユーザーが増えるかで検証するのはうまいやり方だ。このときのメールアドレスには実際にプロジェクト開始時にメールを送るので、どの方向から見てもウソがない。(厳密には、メールが届く頃になると製品名が変わっているかもしれないが、製品そのものは変わらないのでユーザーも損をしない)

もちろんこれは「どういう製品を作るべきか」というふわっとした段階でやるようなものではない。モノがもうほとんどできあがっていて、クラウドファンディングやマーケティングキャンペーンの開始も視野に入り、その中で最終的に製品名を何にしよう? という段階で行うものだ。製品そのものの善し悪しは、こうしたテストだけで測ることは難しい。できるなら世の中に失敗した製品はなくなるだろう。

左はIndiegogoのBluetoothイヤホン、右はHAXのKOKOONという睡眠を助けるヘッドホン。 左はIndiegogoのBluetoothイヤホン、右はHAXのKOKOONという睡眠を助けるヘッドホン。

上は左右どちらも2019年の2月~3月に自分のFacebookを見ていた時に出ていた広告。右のKOKOONはHAXの卒業生で、脳波センサーと連動して睡眠の質を上げるヘッドホンだ。脳波センサーとか、ゆっくり眠れるとか、睡眠の向上アップなど、いろいろな訴求ポイントがある中で、「静かに眠れる」という要素をコピーに、製品名に脳波を持ってきている。僕は実際にKOKOONをback済みなので身びいきもあるかと思うが、魅力が伝わりやすい製品名と訴求ポイントだと思う。

実際にやってみた。書籍「ハードウェアハッカー」でのテスト

2018年11月9日発刊の「ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険」(技術評論社)でも、製品のカバー写真は原著の権利者からの指定があって英語版に近いデザインにしていたが、タイトルはいくつもアイデアがあった。中身は深センの話、スタートアップの経営、ムーアの法則からバイオハッキングまで多様な内容が詰まっていて、タイトルの付け方に悩む。その過程で、本の編集を担当してくれた技術評論社の傳さんとこのテストの話になり、いくつかのタイトル案でランディングページをつくってみて、Facebook広告を行ってみた。

ランディングページの一例。メールアドレスが登録できる。 ランディングページの一例。メールアドレスが登録できる。

タイトル案候補(の一部)

  • ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険
  • 自分で作って世界を変える ~イノベーションを生み出す冒険
  • 自作のハードで世界を変える ~イノベーションを生み出す冒険
  • 世界を変えるメイカーの冒険 ~自分の手でイノベーションを生み出す

結果として、どのタイトル候補でもさほど差が出ず、「それであればオリジナルを尊重しよう」となって、現在のタイトル「ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険」となった。このテストで大きく意思決定が変わったわけではないが、タイトルを巡る試行錯誤をむしろ節約できたし、納得してその後の業務に取りかかれるようになったので、効果はあったと考えている。
“その製品名でプロダクトの魅力が伝わるか”について、クラウドファンディング開始や正式発表前にユーザーの反応を検証できれば手法は問わないんだけど、今のところ思い付く/実際にやってみた限りではこの仕組みはいろいろなケースでうまく機能しそうだ。この辺を見切りで発車して、クラウドファンディング始めてから慌てるプロジェクトは多い。

ステージごとに変化してきたiPhoneのキャッチコピー

マーケティングのうまい会社と言えばAppleだ。代表的製品の「iPhone」は、製品のステージを変えるごとに訴求するキャッチコピーを変えてきた。

このサイトにiPhoneのスローガンがまとまっているが、2007年の初代(日本未発売のGSM版)iPhoneのキャッチコピーは「アップルは、電話を再発明する(Apple reinvents the phone)」「これは、まだ始まりにすぎない(This is only the beginning)」。当時のiPhoneはコピーペーストもできず、動作は極めて遅く、不安定でしょっちゅう再起動する、製品と呼べるクオリティか怪しいものだった。アプリ開発をしたがるアーリーアダプターはこぞって買ったが、初年度2007年の販売はわずか130万台。マニアしか買わないモノだった。キャッチコピーにふさわしい製品で、常用しようとした人が間違って買うことは少なかったように思う。

快進撃が始まったのは2009年の「iPhone 3GS」とそれに続いた「iPhone 4」からで、キャッチコピーも「これが、すべてを変える。再び(This changes everything. Again)」と仕切り直しをうかがわせるものになっている。この頃から音楽レーベルとの提携など、普段使いの利便性を前面に押し出し、広告も増え、iPhoneは誰もが持つスマートフォンになっていた。

リーンに見込みユーザーと試行錯誤する

商品名みたいなものを、実態に近い形でテストするのは難しい。スタートアップの製品は世にないものだから、広告代理店やマーケティング会社を使うのがうまくいかないことが多い。本気を出してもらえるような予算も出しづらい。かといって、こういうスキルは製品を何度も出すことで磨かれるものでもあり、そうした経験が少ないのがスタートアップだ。豊富な宣伝費が使える大手メーカーと違い、スタートアップや個人は口コミで自然発生的に製品が広がることに期待しなければならない。FacebookなどのSNSでシェアされるような製品でないと、クラウドファンディングでの大ヒットは難しい。

今回の検証方法はクラウドファンディング時代にうまく合った調査方法だと感じる。

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